最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)238号 判決 1968年10月17日
上告人
築舘富雄
ほか一名
右代理人
米沢多助
被上告人
宮本鎌伍
主文
原判決を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人米沢多助の上告理由第一点について。
原審の認定したところによれば、本件第一、第二の不動産は被上告人の所有であつたところ、被上告人は、昭和三〇年一一月一五日訴外津軽第一物産株式会社の代表取締役である訴外盛永義夫から、個人名義の財産をもつていないと取引先の信用を得られないから、右第一、第二の不動産の所有名義だけでも貸して欲しい旨申し込まれ、同訴外人との合意のうえ、右不動産につき売買予約をしたと仮装し、盛永義夫のため所有権移転請求権保全の仮登記手続をしたところ、盛永は真正に成立したものでない委任状によつて、右不動産につき、ほしいままに自己に対し所有権取得の本登記手続を経由したというのである。
思うに、不動産について売買の予約がされていないのにかかわらず、相通じて、その予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合、外観上の仮登記権利者がこのような仮登記があるのを奇貨として、ほしいままに売買を原因とする所有権移転の本登記手続をしたとしても、この外観上の仮登記義務者は、その本登記の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗できないと解すべきである。けだし、このような場合、仮登記の外観を仮装した者がその外観に基づいてされた本登記を信頼した善意無過失の第三者に対して、責に任ずべきことは、民法九四条二項、同法一一〇条の法意に照し、外観尊重および取引保護の要請というべきだからである。
今叙上の見地に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、前示のごとく盛永義夫がほしいままに仮登記に基づく本登記をなした後、本件第一、第二の不動産は登記簿上、盛永義夫より訴外太平洋石油販売株式会社を経て上告人藤田に、さらに本件第二の不動産は上告人藤田より同築館に移転しているという以上、原審はすべからく上告人らは本件不動産の取得につき善意無過失であつたかどうか、すなわち、被上告人は本件の本登記の無効を以て上告人らに対抗できるかどうかについて、審理すべきであつたのである。しかるに、原審は何等この点について判示するところがないのは審理不尽の非難を免れない。本件上告は、この点において理由があるものというべきである。
よつて、右の事情について更に審理させるため、上告理由中その余の点についての判断を省略し、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄して本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)